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木材を活用する専門家たち

特集02

木材保存技術

木材保存技術:イメージ

劣化環境の厳しい屋外で使う木材には
必ず耐久化処理を!

本カタログで取り上げている「外構」は、外で使われるために、木材の劣化が重要なキーワードになってくる。木質の外構材に詳しく、特に木材の耐候性について専門に研究されている、日本大学生物資源科学部の木口実教授に、木材保存技術についてお話を伺った。

木口 実:イメージ1

日本大学 生物資源科学部
教授

木口 実Makoto Kiguchi

日本大学生物資源科学部森林資源科学科バイオマス資源化学研究室教授、1984年東京農工大学大学院林産学修士課程修了、同年林野庁林業試験場(現〈国研〉森林研究・整備機構森林総合研究所)、1993年博士(農学)の学位号取得、1994年オーストラリア国立大学客員研究員、1999年科学技術庁中期在外研究員(スウェーデン木材技術研究所、フィンランド科学技術研究機構)、2001年農林水産省研究調査官として出向、2013年森林総研研究コーディネータ、2018年より現職。木材学会理事、 (公社)日本木材保存協会理事等歴任。2018年木材保存協会功績賞等受賞。

欧米と比較して 外構に木材の使用量が少ない日本

今、日本の森林の大部分は50~60年生になっていて、木材資源としてすごく充実している状況なのですが、一番の市場である住宅市場が縮小しています。そこで、非住宅市場をいかに開拓するかが課題で、CLT(Cross Laminated Timber:直交集成板)を使って中低層のビルを作る、あるいはホテルやマンションの内装に木材を使うことなどが進められています。

木材の新しい市場のひとつとして、「外構」「エクステリア」という分野がありますが、これに注目するのは木材の新たな需要拡大の面から非常に意義のあることだと思います。この分野の木材の使用量を欧米と比較すると、日本は非常に少ないのが実情です。外構に使う木材は基本的に「防腐処理木材」を使用しますが、ヨーロッパの国々で年間100~200万m3、アメリカでは1,500万m3以上使用しているのに対して、日本では20万m3程度しか使用量がありません。

日本で防腐処理木材が使用されているのは、そのほとんどが住宅用の土台ですが、アメリカなどでは住宅に占める割合は少なく、「エクステリア」に使用しています。例えば、アメリカのガードレールの支柱は多くが木です。北欧の遮音壁も木が主流です。日本ではこれまで木製のエクステリアはほとんど見かけませんでした。逆に考えれば、非常に大きなマーケットがあるともいえますので、エクステリアを取り上げるのはいいところに着目されたな、という印象です。

港区立麻布図書館:イメージ1

外構に木材を使うことで 生まれる利点

都市で木造建築物を増やそうとなると、防耐火の問題で難しい面もありますが、ウッドデッキやルーバーなどの外構材は基本的には建築基準法の対象外なので、使いやすいものであるといえます。例えば、港区立麻布図書館では木製のルーバーが大胆に使われていたり、お台場のデックス東京ビーチでは一面に木製デッキが設置されていて、周囲の商業施設との差別化を図っています。

なぜ街に木材を使うのかというと「優しさが感じられる」「緑の多い地域では周辺環境と調和がとれる」「コンクリートにはない木のぬくもりが、学校や集会所など子どもやお年寄りにも向いている」などの利点があり、木材を使った店舗は特に女性を中心に集客性が高いそうです。ですから今こそ都市部で木を使うべきではないか、という動きがあります。

新国立競技場も4,000本のスギの角材を貼り巡らせているということで、エントランスから見上げると木しか見えないですね。中に入ると、屋根のフレームも全部木で被覆(ひふく)されているので、木で作った屋根のように見えます。惜しむらくは、観客席。ここを全部木でやるという話もあったのですが、コストやメンテナンスの面でなくなってしまいました。非常に惜しいのですが、それでも木材がとてもリッチに使われている建物です。

外構に木材を使うことの利点としては、木材の持つ省エネ性能も挙げられます。木製ルーバーやウッドデッキで壁や屋上を覆うと、葦簀効果で真夏でも建物が熱くならないのです。昼間に建物の蓄熱量が減ると、夜間の放熱量が下がるので、夜間温度が下がります。大阪の都心部の建物の47%を木製ルーバーなどで被覆するというシミュレーションがありますが、そうするとなんと1970年代の夜間気温に回帰出来るという結果が出ました。すなわち、ヒートアイランド現象が抑制出来るということです。

また、都内23区の屋上面積は約1万7,000haあり、このうち屋上緑化が可能な耐火構造建物の屋根面積は約6,800haという報告があります。このビルの屋上に厚さ50mmの間伐材を貼ったら、なんと340万m3の木材が使えるという計算が出来ます。是非東京のビルの「屋上木化・壁面木化」を進めて頂きたいです。

外構で木材の使用量を増やすのであれば、屋上木化の他にアメリカの例にあるようにガードレールのような道路付帯設備が向いています。日本では木製ガードレールといえば支柱が鉄やコンクリートでレールが木のものが一般的ですが、木を横使(よこづか)いすると水が溜まって腐りやくすなるので、耐久性を考えるなら支柱で使う方がいいかもしれません。

今、オリンピックや外国人観光客を意識して、宿泊施設や飲食店のエントランスや内装に「和のテイスト」で木材を取り入れる事例がすごく増えています。エクステリアとして使えば、街中(まちなか)でも可能です。建物の外装では特に耐久性よりも美観やデザインが重要なので、10年くらいで取り替えてくれるといいんですよね。メンテナンスがとても大変なので、ルーバーや木製外壁なども取り替え可能にして、工場で修理したり新しいものと交換しやすいシステムが出来れば、木製品の信頼性や利便性が高まるのでかなり使いやすくなると思います。ですから、設計士さんには木材の取り替えを提案して頂いたり、取り替えやすいような建物、外構の設計をお願いしたいですね。

都市部でこそ木を使うべきではないか、という動きがあります

新国立競技場:イメージ

これからの街づくりには 木材の耐朽性、耐候性への考慮が必要

これからの街づくりへの提言なんですが、防火などに加えて、耐朽性や耐候性も考慮してもらいたいですね。「木はいいから」というだけでそのまま使っていると、1~2年で駄目になって「こんなはずじゃなかった」「だから木は駄目なんだ」というネガティブキャンペーンになってしまいます。

林野庁の「外構部の木質化(木塀、木柵等)の支援事業」でも、「強度を担っている部材には確実な防腐処理をすること」としています。このような部材には必ずK3以上の防腐処理をして、表面には木材保護塗料を塗るよう求めています。

 一般社団法人自然環境共生技術協会による市場調査結果をみると、スギやカラマツなどの無処理材の耐朽性は5年以下です。耐朽性の高いイペやジャラといった熱帯産木材などは、価格が1m3当たり20~30万円と非常に高いんですよ。一方、スギやヒノキの保存処理材は、価格は無処理の数割程度しか上がりませんが、耐朽性は3~5倍も上がります。ですから、屋外では防腐剤を注入処理した木材を使うことが必須です。

欧米に比べて防腐処理木材量が少ない日本では、「木がきれいだから」とそのまま使って、すぐに駄目になってしまうことが多くあります。コストが低く耐朽性が伸びるので、外で使う木材には必ず防腐処理をしましょう。

なお、カラマツ自体の耐朽性はスギより高いのですが、薬剤の注入が非常に難しいので、耐朽性でみると薬剤処理をしたスギやヒノキの方が、寿命が長くなります。ちゃんと薬剤が入っていれば屋外でも20年以上は持ちます。

加圧注入した保存処理材の性能は、日本農林規格(JAS)で決められており、木材の使用環境によってK1からK5に分類されています。屋外でもウッドデッキやルーバーのように地面に接していないものはK3処理、地面に接して常に水が供給されるような劣化環境が厳しい場所ではK4処理のものを使う、ということです。

木材の腐朽と価格の目安
木材の腐朽と価格の目安:表
基礎を高く、軒を出し、雨どいを作らない:イメージ
木口を保護したフィンランドの木塀:イメージ

基礎を高く、軒を出し、雨どいを作らず木口(こぐち)を大事にする

外構に木材を使用する際の 劣化を防ぐポイント

外構に木材を使用する際、劣化を防ぐ方法としては、基本的に雨と光を当たらなくするのが一番いいんです。軒を出すようなデザインにするとか、基礎を高くするとか。それが難しいときは、しっかり防腐剤で処理した木材を使用するなど、劣化に適応した木材を選んでもらうことが大切です。このようなことが、耐久性に配慮した木造建築で設計士さんにお願いしたいことになります。

意外と知られていないのですが、雨どいがない方が耐久性には有利ということがあります。なぜかというと、雨どいは使用と共に必ず壊れるか、詰まって雨水がオーバーフローするんです。すると、水は雨どいに沿って建物の角部に集まって、建物の強度で大切な角部が腐ってしまいます。雨どいを作るなら、メンテナンスを行って破損や詰まらないように気を付けなければいけません。

また、ウッドデッキなどはデッキと根太と接している面に毛細管現象で水が入ってきて、溜まりやすくなります。こういった水は一旦入ると出すことが難しいですから、根太の形を丸くするど、なるべくデッキと接する面積を減らすような工夫を行うことで、耐久性が延びたりします。

そして、木材を横に切った切り口を「木口(こぐち)」といいます。私は「木口(きぐち)」ですが(笑)。木はストローを束ねたような構造をしているため、木口が外に出ていると、そこから水が入ってきてしまいます。なので、木口を外に出すときは、水が入らないような工夫が必要です。例えば、京都の清水寺の舞台などでは、木口が出るところに笠木(かさぎ)を付けています。

こういう木の特徴に気を配らずに設計する場合が多く、縦使いなどで木口を上に向けていると、そこから水が入って簡単に腐ってしまうんですね。縦使いでも、横使いでも木口を塞(ふさ)いで下さい。私も学生たちに、常々「木口(きぐち)は大事にしなさい」と言ってるんですけどね(笑)。特に縦使いの場合は木口を塞ぐキャップをするといいです。また、土と接していると必ずそこから微生物がたくさんいる水が入ってくるので、木製外構を施工する場合は土壌に接しないようにかさ上げするといいですね。

水の滞留がないように設計するのが基本ですから、例えば手すりのところなどは水平にするのではなく、ちょっと傾斜を付けるだけで水の滞留はだいぶ防げます。

それから、ピン角といって角を直角にしないことがコツです。なぜなら、どんなに塗膜(とまく)を厚く塗っても角は線ですので塗料はほとんど塗れません。そうなると、塗膜はこの角から剥離(はくり)していくのです。ですから、角にRを付けて、面として施工してもらうと塗料耐候性や、ひいては耐久性が延びます。

笠木で木口を保護 /清水寺:イメージ
木口面保護例 / かりこぼうず大橋(宮崎):イメージ
地面と接しない構造例:イメージ
傾斜の付いた手すり:イメージ

木材の色の変化──耐候性について

耐候性の話ですが、屋外で使っているうちに木材特有の色が変わってしまうことでクレームになることが多いです。木材は、時間の経過と共に灰色に変わります。なぜ灰色になるのかというと、これは木材中の化学成分が分解することで灰色になるという説明もありますが、実はそうではなく、あれはカビなんです。外に置いた木材は、表面の「リグニン」という物質が紫外線を吸収するために分解するのですが、この分解物を栄養に出来る黒色のカビが生えてきます。これが、雨が降ると一気に広がり、1年を過ぎる頃には灰色になります。灰色になった木材表面を顕微鏡で見ると、カビの胞子がたくさん見えます。リグニンが紫外線によって分解すると黄色くなります。外に置いた古新聞は黄色くなりますよね。あれはリグニンの光分解によるものです。木材の場合は、そこに黒色のカビが生えて灰色になるということです。

木材の灰色化は樹種を問わず起こります。ただし、表面から1mm程度の劣化なので、木材の強度への影響はほとんどありません。ですから、例えば1,400年前に建てられた法隆寺のヒノキも、かんなで削れば元のヒノキの色や香りが出てきます。

日本では、木の色は?と聞けば茶色や薄い茶色と答える場合がほとんどと思いますが、アメリカでは屋外で使う木の色は灰色という答えが一般的なのです。逆に、「屋外でいつまでも茶色というのはおかしい、フェイクの木ではないか」と疑われるので、わざわざ初めから茶色の木材に灰色の塗料を塗るということも行われています。最初から灰色に塗装しておけば、そのうち塗料が落ちてきて最終的に灰色になるので、実質メンテナンスフリーです。

横浜港の大さん橋は、イペという木で作って今は灰色になっています。これは、オランダの人が設計したのですが、当然ですが完成した直後は茶色でした。竣工式で、「皆さんはこれで完成したとお思いでしょうが、このイペが全部灰色になったときにこの大さん橋が完成したことになります」というスピーチがあったそうです。

欧米ではこれが普通の感覚で、10年ほど前にオランダ大使館の改修工事を見に行ったんですが、わざわざ灰色になったデッキ材を施工していました。日本ではクレームになりそうですね。

このように「灰色の木でも悪くない」、あるいは「外では灰色の木が当たり前」という風潮が出てくると、メンテナンスが軽減されていいのですが。レンガなどの濃い色調の外装材と灰色の木の組み合わせなどは、デザイン的にも優れていると思います。

公益財団法人日本住宅・木材技術センターで、こうした耐候性塗装木材の規格を作っています。優良木質建材等認証制度(AQ)のひとつに「耐候性塗装木質建材」というものがあって、この認証では、塗装木材の耐候性を促進耐候性試験によって「表面劣化」「はっ水度」「色変化」でそれぞれ判定基準を設け、基準により「耐候形1種、2種、3種」の3段階で評価します。工場で塗装した製品をこの規格で評価することで、耐候形によって5年あるいは7年程度もつ性能がある、などという目安になります。

銅を含む防腐剤で処理した木材に木材保護塗料を塗装すると、上に塗った塗料の耐候性が向上するという報告があります。そのため、外構の木には防腐処理と耐候処理を同時にやるのが望ましいです。

面取りの効果:図
面取りの効果
耐候性判定基準:表
耐候性判定基準

防腐処理と耐候処理を同時にやるのが望ましいです

外構に使用する木材は、透明や淡色の塗料で木材の持つ色を隠さないものほど、耐候性は低くなります。日焼け止めと同じと考えて頂ければ分かりやすいと思いますが、塗料は色が濃ければ濃いほど紫外線を防いでくれます。

よく、インテリアとエクステリアの一体感といって、透明のクリア塗料を使って内部と外部とを仕上げるケースを見ますが、これでは外部がすぐに灰色になるか塗膜が剥がれて内部とは真逆の違った色調になってしまいます。茶色で統一感を出す場合は、内部はクリア塗装でいいですが、外部は茶色塗装あるいは灰色塗装といった着色塗装をするのがいいと思います。

このように、屋外で木材の持つ天然の色を出そうとするとすぐに劣化してしまいます。透明系の塗料を屋外で使うなら、毎月メンテナンスするくらいでないと塗装がもたないので、それが出来ないのであれば濃色の着色塗装をしましょう。

それから、何度も繰り返しますが、木製品を屋外で使う場合はメンテナンスが必須ということを頭に入れておかないといけません。防腐処理と耐候処理をしたのち、3年から5年、その後は5年から10年で塗り替えなどのメンテナンスをしっかりすれば、外でも木材は長くもつのです。ですので、塗装は塗料の耐候性の他にメンテナンスしやすいものを選ぶ必要があります。部分的に残ってしまった硬い塗膜はメンテナンスが非常に大変になります。

メンテナンスさえしっかりすれば、法隆寺や他の歴史的な建造物を見るまでもなく木材は1,000年以上も使えるのです。コンクリートはいくらメンテナンスをしても、中性化反応が起こるために絶対に1,000年はもちません。プラスチックも、自動酸化現象が起こりますがこれを止めることは不可能です。その点、木材は生物劣化さえ防げば半永久的に使える材料なのです。

木の外構は、街にとっていい風情を与える

今、流山の駅前開発を行っていて、木のストリートファニチャーとか、木で仕上げた空中回廊やテラスなどをたくさん作っています。木は街にいい風情を与えてくれますので、気に入って使っているんですけれど、そのときに使える国内産の材が圧倒的に少ないです。やはり、南洋材がメインになりがちなので、化学処理も含めて国産木材で、外構のデッキなどで使えるようなものが増えてくれると、本当にありがたいです。

もしも、安定供給が出来るのであれば、南洋材よりも多少強度が低かったとしても、都度替えていけますから、メンテナンスのことを考えても、地元の材での安定供給を望みます。違う材になってもいいんですが、なくならないようにしてもらえると嬉しいです。

怒られるかもしれませんが僕はメンテナンスをフリーにしなくてもいいと考えているんですよ(笑)。メンテナンスによって、地場の林業、地場の大工さんに定期的に仕事が生まれるような作り方は地域経済や風景にとってプラスだ思っています。

デッキ材としては、樹脂に木チップを混ぜた「エンジニアリングウッド」などがありますよね。あれはあれでいいんですけど、木というか、茶色いプラスチックという気がしますよね。やはり踏み心地とか、触りたいと思えるような肌との親和性が圧倒的に違うので、是非本物の材料で作りたい。メーカーも努力しているので、だいぶ良くなってきてはいるんだけれど、やはり本物の木にはかなわないですね。

それから公園の遊具は、木にして欲しいですね。是非セミオーダーの木製遊具が増えて欲しいと思います。フルオーダーでもいいと思いますが、セミオーダーで、その土地の子どもたちや気候に合わせた木の遊具が増えていくこともとても大切だと思っています。

鉄やプラスチックはうまく組み合わせられないことがありますが、木は融通が利きますから、相性がいいんですよね。その土地、その土地の木製遊具があるということは、とてもいいことだと思います。

メンテナンスのことまで考えて、維持管理費を予算に付けてくれるといいんですけれど。メンテナンスフリーって、管理者側の心理的負担は少ないですけれど、樹脂ばかり、石油由来のものばかりですから、実はメンテナンスフリーが一番、風景を、山を駄目にしていると思います。

日常的な公園みたいな場所にこそ、ちゃんとデザイナーが入って欲しいですね。既製品の遊具を並べただけみたいな公園ばかりなので。若手デザイナーにとっても、公共事業への初参入は大変ですから、公園などで実績を積んでいけば大きなチャンスになるし、公共空間も豊かになることでしょう。

屋外暴露数年後の無塗装木材:イメージ
木材表面に発生したカビ(黒酵母菌類):イメージ
灰色の木材に改修された、オランダ大使館のウッドデッキ:イメージ