文字サイズ

とうきょうの木のすゝめ

「とうきょうの木」は身近に体験できる

都市部で普通に生活していると、森林は、関りが希薄で、遠い存在と思われるかもしれない。東京都の森林については、多摩地域の森林に赴くことで感じたり、体験することができる。しかし、それに携わる方々に出会う機会はなかなかないだろう。ところが、東京都の都市部や近郊の多摩産材情報センター、新宿のショールーム、多摩産材利用拡大フェアーなど興味のあるところに行けば、そのつながりを学び、情報を仕入れることができる。身近にある木製品は、同じように見えていても、そのもとをたどれば自然で生育した多様性のある樹木である。その活用の仕方も実に多様性があり、まずは足をはこんでみることをお勧めしたい。

多摩地域の森林は、東京都西部の主に多摩川、秋川流域に位置し、森林面積は約5万haである。森林のうち天然林が2万ha、人工林が3万haで、天然林は過去主に木炭生産などに活用された二次林、人工林はスギ・ヒノキ・カラマツなどを植林し育てられた森林である。木材製品として活用される材は主として人工林からである。多摩産材は、多摩地域で適正に管理生産され、多摩産材認証協議会が証明した木材であり、正四角形にみえるユニークな「とうきょうの木」のロゴマークが付けられている。

ここでは多摩産材利用拡大フェアーを紹介しよう。多摩産材利用拡大フェアーは、毎年11月頃に開催する東京都多摩地域から生産された木材を紹介するイベントである。2017年から2023年までに8回実施されてきた。最近は新宿NSビル大展示ホールで2日間開催されている。製材事業者や建築用材・家具・什器・木工品等のメーカーなど、多摩産材を取り扱う業者と、多摩産材を活用したい・利用したいという最終消費者がマッティングを行う場所である。実際の木材や製品を間近に見て、感じられる場所である。また、具体的な取り扱いの方法、申し込みの方法など各種相談口も設置されている。直接生産者と関われるよいチャンスになっている。

参加されている企業は、2021年を例にすると34社で、家具・什器(天板、テーブル、椅子)が15社、外構・外装(フェンス、ベンチ)が6社、建材(パーテーション、フローリング)が13社である。展示してあるものは工夫され、ユニークなものが多く、体験したり、詳細をみることができる。例えば、遊具、木道、木槽、リアカー、自転車、組木の椅子、木のホワイトボード、木のストロー、ノベルティグッズ、凝った生活雑貨などである。また、圧縮や不燃や防腐処理をした材料、ツキ板など半製品なども展示されている。展示の仕方も、自然からの過程がわかるような説明、展示、産地体験会の案内なども紹介されている。セミナー、木育・ワークショップなどにかかわる相談も受け付けている。2023年にはPRプログラムも行われた。森林から木製品に至る過程をわかりやすく、詳細に、具体的にイメージできる空間である。

この多摩産材利用拡大フェアには、2日間でおおよそ1,000名が来場している。2021年の場合、多摩産材の取り扱いに関連する建築設計・デザイン事務所関係が(9.6%)、工務店・ハウスメーカー・ゼネコン・建設会社(8.6%)、建材・木材製品の製造・販売(17.4%)、官公庁・公共施設・団体が38.6%で全体の7割ぐらいを占める。一般の方が9.6%、その他が16.3%で、関係者や業者ではない方も全体の4分の1である。つまり、多摩産材を具体的に活用するだけでなく、活用推進を進める方、最終消費者など多様な方が参加されていることがわかる。アンケートをもとに、参加者の多摩産材へのこだわりの度合、多摩産材利用拡大フェアー参加のビジネス度の違いを分析してみると、多摩産材をメインに訪問されている方が53.4%、多摩産材以外の木材も目的とされている方が46.6%、ビジネスをメインにされている方が67.5%、ビジネスを目的とされていない方も32.5%となっていた。つまり、多くの方がそれぞれの目的で多摩産材について学び、体験し、活用を考えられる空間が多摩産材利用拡大フェアーには存在していることが確認できる。

森林資源は再生可能なので、うまく活用すれば、循環し私たちの生活を豊かにする仕組みになっている。森林から木材として活用されるためには、様々な業種の連携が必要不可欠である。例えば、森林を育てる、育てた森林を伐採して丸太(素材)にする、丸太を直方体に製材する、活用するように設計して加工する、加工されたものを組み立てる。といった具合でそれぞれの加工技術、使用する機械が異なり分業して成り立っている。フェアーの位置づけをもう少し考えてみると、第1に、生産地、生産者、加工販売業者が、電車で数時間の身近な都内にも存在していること。第2に、東京都は人口1400万人を有する大都会であり、木製品の大消費地であること。第3に、東京都の森林を活用することによって、森林整備へと展開し身近な地域環境を保全することを具現化できることである。森林と私たちの生活は、環境、社会、物質をとおして、直接的あるいは間接的に密接に関連していることを認識できる機会である。多摩産材利用拡大フェアーは、具体的な活用を考えるビジネスの場であるとともに、交流の場、学びの場でもある。

東京農業大学地域環境科学部森林総合科学科佐藤孝吉・岩崎司

参考文献
  • 市村那之(2022.7)いかにして地域材を活用していくか-多摩産材情報センターと多摩産材利用拡大フェアー、山林55-61
  • 東京都産業労働局(令和4年版)「東京都の森林・林業」
  • 東京の木多摩産材利用拡大フェアー、リーフレット